甘い脅迫生活
見つめ合うこと、数秒。笑顔を崩さない社長は、私の頬に指先を滑らせる。
吐息が当たる距離。近すぎるその距離に顔が熱くなる。
こんなに間近で最上級のイケメンを拝めるんなんて眼福、なんだけど……状況が状況なだけに素直に喜べない。
「断られるとは思ってた。」
社長の言葉は意外なもの。そう思ってるんだったら初めからすんなよとは内心ツッコンだけど。さっきまでこの人が放っていた謎の自信はなんだったのか。
「でももう手遅れだ。美織は俺の妻になるんだよ?」
「へ?」
その自信の根拠を、社長はご存知の様子。
「君のご両親への挨拶はもう済ませている。君にサプライズでプロポーズをするから、内緒にしておいてくれと念を押しておいたのは正解だった。」
お母さん。昨日電話で話したよね?次の返済いくらずつ出そうかってシビアな話だったけど。
「借金はそのままで。俺が払ってもいいけど、君の性格上、納得はしないだろ?だったらそのまま、返し続ければいい。」
私の性格を、いつ知った気でいるのか。確かに、社長がすぐに返済すると言ったら反発しただろうけど。
人に借金を払ってもらうなんてまっぴらごめんだ。我が家の問題は、家族で解決する。そう思って今まで、頑張って働いてきたんだから。