甘い脅迫生活
「奥様。」
「へ?」
山田さんが穏やかに笑う。
「着きましたよ。」
「えっ。」
色々話している内に、車は目的地に到着していたらしい。
「あの、寄らないと言いましたけど。」
「そうでしたか?」
素早く車を降りた山田さんが、ドアを開けて私を見下ろしている。
どうやら私は、社長の家で山田さんの手料理を食べることになったらしい。全く笑っていない山田さんの笑顔が、そりゃ行くよな?と語りかけてくる。
「山田の手料理は美味いぞ美織。」
「……そうですか。」
そしてやたら山田さんの手料理押しをしてくる社長。イラつけばいいのか、怖がればいいのか……なんだかどうでもよくなってきた。
「食べますよ。食べればいいでしょう?食べれば。」
「味は保証いたします。」
「はぁ。」
私はどうやら、この少女漫画のような馬鹿らしい出来事に、巻き込まれてしまったらしい。
今日、私の夫になった人は、誰もが羨む、最高の男性。
世界を支える会社の社長で、イケメンで、秘書が優秀過ぎるほど優秀な人。
本来なら、この人と結婚できたことを幸せだと思わなくちゃいけないんだけど……やっぱりまだ、自覚は持てない。
そして、自信満々だった山田さんの料理は、本当に最高に美味しかった。