甘い脅迫生活
明朝。
「おはようございます、奥様。」
「……。」
いざ出勤だと玄関からいつもの一歩を踏み出そうとした私。扉を開けた途端、山田さんがいつもの無表情で立っていた。
突然現れたイケメン眼鏡に、あまりにも驚きすぎて挨拶すら返せない私を他所に、山田さんは視線で廊下の先を示す。
「奥様がお仕事の間に、全てを運んでおきます。捨てる物などあるかと思いますが、それも全て一応運ぶこととします。要る物、要らない物は、新居にてご選別ください。」
そして山田さんの視線の先には、引っ越し業者の方々が。
「よろしくお願いします。」
「かしこまりましたー。」
絶句の私に代わって山田さんがゴーサインを出したことで、部屋に次々と入っていく。ああ、まさか。こんなに早く来るなんて。
いや、来ないでよかったんだけど、来るとしてもほら、私、今日副業もあるし。やるとしたら勝手に夜中とか仕事と仕事の間とか、そんな勝手なことを思ってた。
それがまさか、朝一番とは。
「家が、汚いんです!」
「かまいませんよ。」
なぜかここだけは爽やかな笑顔で言う山田さん。ほんとにこの鬼畜眼鏡、たまに首を絞めたくなる。
「私はかまうんですが!」
机の上は、さっき端っこの耳だけ食べきれなくて皿ごと置いてある朝食がそのまま。隣には、カップルとばかりに飲みかけのコーヒーが。