甘い脅迫生活
「き、きたっ、」
誰かが小声でそう言った。シンと静まり返った配送部は、普段の喧騒はどこへやら。
それだけ、社長という存在は大きなもので、それだけ、優雨は凄い人なんだ。
いつもの優雨の高級車が搬入口から滑り込んできた。隣の社員さんが生唾を飲む。対して反対側のさえちゃんは目をキラキラさせている。そのギャップにまた噴き出しそうになってしまった。
車の傍に、所長と副所長が並ぶ。緊張した面持ちは、いつもの所長の3倍はかっこよく見えた、気がする。
助手席から山田さんが、いつもの秘書らしからぬ無表情で出てくる。山田さんが姿を現しただけでこの場の空気が一気にピリついた気がした。
山田さんが後部座席のドアに手をかける。もう一度、隣の社員が唾を飲み込んだ。
開かれたドアから降りてきたのは、いつもの柔らかな笑顔の優雨。
もう見慣れてしまったスーツ姿も、車も山田さんもいつもの通りなのに、なんだかすごく、距離を感じてしまう。
「お疲れ様。」
優雨が笑みを深める。
「「「「お疲れ様です!!!!」」」」
社員を中心に、大きな声で頭を下げる。もちろん私もそれに習って頭を下げた。
「社長、まずは搬入口から配送までのラインをお見せいたします。それから室内にお移りいただき、そこで会議を、」
「いや、」
山田さんの言葉を遮った優雨は、所長をまっすぐに見て口を開いた。
「まずはここの内側を見たい。」
「っっ、は、か、かしこまりました!」
優雨の意向に、所長は緊張しっぱなし。