甘い脅迫生活
「先輩ー、所長緊張しすぎでウケますね?」
さえちゃんが凄く小さな声でそんなことを言ってくるから。
「ふっ、ほんとにそうだね。」
思わず笑ってしまう。
ふと、優雨がこちらを見た。向けられた笑顔はなんだかいつもとは違うもの。
不意に、優雨はそのまま視線を外して、おどおどしている所長と一緒に行ってしまう。山田さんだけが残ってこちらをジッと見ていたけど、一礼して優雨を追って行ってしまった。
「うわ、こわ。私語厳禁的な?」
「……そうかもね。」
なんとなく、すっきりしない。自分がどうしたいのか分からないから、こんな気分になるんだろうか?
私はどうしたいの?
優雨が私の旦那さんだと、みんなに知ってほしい?それとも知ってほしくない?そのどちらかだとしたら、その理由は?
結局深くは考えたくなくて、みんなに続いて業務に戻ることにした。
「いいなー。先輩。社長を拝めるじゃないですか。」
「代わってあげたいくらいだよ。」
「うわ、やっぱ新婚は余裕ですね。残念だなー。ていうか社長のかっこよさものすごくないすか?あれは芸術レベル!」
「そだね。」
「でもあれで鬼畜野郎らしいですよ。そのギャップがいい!」
さえちゃんとなんでもない話をしながら、途中で別れて事務所に向かう。いつもはノックもしないけど、一応。
「失礼します。」
どうやら優雨たちも部屋に着いたばかりらしく、3人とも立ったまま、こちらを振り返った。
「あ、脇坂さん、お茶頼むね。」
「承知しました。」
所長に言われて気付いた。そういえばさえちゃんは配送の手伝いだった。予定が変更になったもんだから私がお茶を用意しないと。
余計なことを。理不尽にも内心、優雨に悪態をついてしまう。