バージンロードで始めましょう~次期社長と恋人契約~
 帰宅を促す言葉が、『もうこれで話は済んだ』という言葉にしか聞こえない。

 終止符を打たれた心細さと寂しさを感じ、うろたえている自分自身に気がついて、強い嫌悪が湧いた。

 私から拒絶しておきながら、なにを勝手な。

「明日は休暇をとれ。このところずいぶん忙しかったからな。翌日は午後から出勤してくればいい」

 淡々とした彼の声と言葉に、胸が裂かれるように痛む。

 つまり彼は、もう私の送迎をやめると言っているんだ。それは私との関係に見切りをつけたという、決定的な意思表示に他ならない。

 返す言葉もなくて、ひたすら唇を噛みしめる私の耳に、遠ざかっていく足音が聞こえる。

 彼が確実に私から離れていく気配を感じながら、恐る恐る背後を振り返った。

 鮮やかな青色に咲く竜胆の花で設えた小径を、背の高い男が立ち去っていく。微塵も迷いの見られない足取りの確かさが、私には堪らなく切なかった。

 声をかけることもできないまま、あっという間に彼の姿が見えなくなって、後には水を打ったような静寂だけが残った。

 小鳥のさえずりも聞こえない庭に秋風が吹き、私の前髪とヴェールを揺らして、寒々とした寂寞を誘う。
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