バージンロードで始めましょう~次期社長と恋人契約~
「大宮様は私のことを、恋も愛も理解できない感情の欠落した人間だと思っているようですが、ご心配なく。ちゃんとこの通り、心から愛する人がいます」

 副社長も私と息を合わせて、さっそくお芝居を続ける。

 私の髪をさり気なく撫でたり、言葉の合間に優しく微笑みかけてきたり、なかなか芸が細かい。

 感心しながら見上げれば、私を抱き寄せている彼の流麗な横顔のラインと、艶やかな黒髪が視界に飛び込んできて、つい見惚れてしまう。

 意識してなくても自然と目が引き寄せられちゃう。それぐらい完璧な美形……。

 確実にいつもより熱くなっている自分の体温を感じながら、そんな自分がおかしくて私はクスッと笑った。

 ふふ、懐かしい。まだ私にもこんな感情が残っていたんだなぁ。

 とっくの昔に涙と一緒にぜんぶ枯れ果てたと思ってたのに、最後に残った一滴を、副社長に掘り起こされちゃったかな?

 お芝居だとわかっている安心感のせいかもね。

 どうせもうこれが最後だ。このお芝居がすぐに終わってしまうように、私の中の最後の一滴も、あっという間に消えるんだ……。
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