バージンロードで始めましょう~次期社長と恋人契約~
「お疲れ様です。どうぞよろしくお願いします」

 腰を折って挨拶する私に、相手の方も慣れた様子で頭を下げて挨拶を返してくれた。

「こちらこそよろしくお願いします。えぇと、演奏場所はあっちの方ですよね? では早速」

 楽器ケースを抱えた人たちがゾロゾロと移動する後に続いて、私も庭へ向かった。

 そしてサロンの前を横切ろうとしたとき、大窓から中の様子が見えて、私は思わず立ち止まる。

 部屋の中で佇んでいる副社長が、左の掌を自分の顔の前まで持ち上げて、とても優しい表情でじっと見つめていた。

 ついさっきまでその手に包まれていた自分の右手に、不思議な熱を感じてしまう。

 そうして彼の様子を食い入るように見つめている私の目が、次の瞬間大きく見開かれた。

 副社長が……自分の掌にそっと唇を押し当てている……。

 この手に直接口づけをされたような激しい衝撃に襲われ、私の心臓は破裂しそうに大きく高鳴った。

 頭が混乱してしまってどうすればいいのかわからず、反射的に身を翻して、逃げるようにその場を後にする。

 あ、あれは、なに? どういうこと?
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