目は口ほどにものをいう

「それが、別れようと思った理由?」
「はい。」

誤解はきちんと解いておこう。
ゆかりに向き直り、ゆっくり話す。
「まほとは仲がいいけど女としては見てないよ。みんなには言ってないけど、あいつ幼なじみだから。
まほと話してたのはたぶんゆかりのこと。」

「まほさんも言ってました。『司の'彼女'の話をしてたからよ』って。それで、私、課長に向き合おうって思ったんです。」

あいつ……
悔しいような、感謝したいような複雑な気持ちだ。

「それから、気持ちを見せなかったのは、仕事がしにくくなると思ったから。
それに、ゆかりは俺を怖がってたし………」

「私が課長を、苦手って知ってたんですか?!」
気付いてないと思っていたとは………苦笑いするしかない。
「見てればわかるよ。理由はわからないままだけどね。」

「課長が、感情を見せなかったからです。何を考えてるのかわからなくて怖かったんですよ。」
なんだ。そうだったんだ。
「もう気持ちは、隠さないことにする。あー。でも、仕事中は無理だな。俺、隠さないとすぐ顔に出るみたいだから。」
ゆかりがクスクス笑う。

「課長、怒ってないですか?」
「怒ってないよ。怒る理由もない。俺がはっきりさせなかったせいで、勘違いさせて悪かった。」

ゆかりがゆっくり首を横に振り、俺をみあげてくる。
「課長。好きです。」
満面の笑みで告げられる言葉がかわいくて愛しくて。
「俺も。」

どちらからともなく唇が重なる。触れるだけのキス。
でも、心が満たされた気がした。
< 45 / 71 >

この作品をシェア

pagetop