私たちは大人になった

“思いがけないところでやって来る大逆転は、諦めなかった人だけの特権”か。
不意にカフェの店員さんがくれた言葉が思い浮かんだ。

「諦めなかった人だけの……」

“諦めない”のは好きの気持ちを伝えずに続けるこの“関係”か、止められなかった好きだと言う“気持ち”そのものなのか……。
拘っていたのは伝わらなかったとしても、どこかで繋がりを持ちたかったから続けてきたもので。
元を辿れば私の気持ちはいつだって変わりなくて。
優がいなくなると言うのなら、結局はその繋がりさえ無くなってしまう。

それは、そんなのは……




――――嫌だ。
単純に、思う。
優に会えなくなるのは、嫌だ。
名前のない私たちの関係は、離れてしまえばもう会うことすら叶わない。
それを自覚したときにはもう、体が動いていた。

高校生の自分は、力もお金もなくてただ離れるしかできなかった。
今の自分には何があるのか?と言われても大してあの頃とは変わらないかもしれない。
でも、高校生の頃から多少の成長はしてるはずだ。
いろんな経験をして、助言をもらって、それでも無くせない気持ちなら。
今が勇気のだしどころなのかもしれない。

「お母さん、ちょっと外出てくるから」

一言声をかけて、スマホに指を滑らせてメッセージを打つ。
とても簡単なメッセージ。

“優の家の前で待ってる”

絵文字も顔文字も、スタンプもなく、とてもシンプルで簡素なメッセージ。
既読がつくかどうかも見ずに、すぐにポケットに放り込んで、すぐそこのマンションのエントランスを抜けた。


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