私たちは大人になった
優の家に入り、リビングのソファに腰かけるとそっとマグカップを差し出された。
ありがとう、と受け取り、香り立つコーヒーに少し冷静さを取り戻した。
「走ってきたの?」
「まぁ。初めてお前からの連絡が来たから」
言われてみれば、いつも優からの連絡を待つばかりで私から送ったことはない。
「私から送ったら迷惑かなと思って。優、他に好きな人がいるのかなと思ってたから」
「……そんな見境なく好きでもないやつ襲うかよ」
「忘れられない人がいるって言ってたじゃない」
「分かりやすくしてたと思うんだけどな」
「……期待はしたよ。でも言葉はくれなかった。態度だけじゃ分からないじゃない。“忘れられない”って言うほどの思い出が私たちの間にあったかって言われると自信はないし」
「まぁ高校時代は俺が勝手に好きでいただけだし?……でも一番忘れられなかったのは卒業式の日だよ」
そう言われて顔が熱くなった。
そしてふわりと唇が落ちてくる。
好きだと互いに伝えてから、まだ1時間も経っていないのに優の雰囲気は今までの比ではなく恋人同士のようだ。
それがなんとなく恥ずかしくて、今までの交わらなかった気持ちを繋いでいくように私は会話を紡ぐ。
「だいたい、ご両親帰ってきて優がここから出ていくっていうの、私は優本人から聞いてないし」
「言うにも準備っていうか、順序があるだろ」
「なにその段取り」
ぐっと詰め寄ると、優が参ったと言うように手で顔を覆い、顔を伏せるから私はそれを覗きこむ。
指の隙間から私をちらりと確認すると、大きくため息を吐いて顔を上げた。