颯悟さんっ、キスの時間です。(年下御曹司は毒舌で腹黒で…でもかわいいかも?)
桐生颯悟はうなずきながらも反論を繰り返した。スマホの向こうの父親の言い分としては、見合いの席につくだけで対面が保てるから出なさい、とのことらしい。きっと重要な取引先の紹介なんだろう。

あーでもない、こーでもない、と意見していた桐生颯悟の口数が段々と減ってきた。これは情勢厳しいようだ。


「……わかりました。とりあえず見合いはします。でも受けません、それでいいですね? 社長」


桐生颯悟は復唱しながらテーブルにあったメモ用紙にさらさらと書き込む。来週の土曜日、サトーホテルズのロビー。通話を切り、ため息をついた。


「う、受けるんですか?」
「うん。でも断るから心配しないで。ごめんねみのり」
「いえ、その、事情もあるみたいですし」
「父さん……いや、社長には仕事上で借りがあるんだ。大きい失敗をしたことがあった、って言ったでしょ?」
「はむはむカフェで潰れたときの話ですよね?」
「うん。そのときオレの尻拭いしたのは社長だったから。それを持ち出されると弱いんだ……はああ」


完璧そうにみえる桐生颯悟でも失敗はあるらしい。サラサラの髪をかきあげ、床を見つめている。こんなときは気分転換だ。


「颯悟さん、天気もいいし出掛けませんか?」   
「そうだね。食事の用意しておくからシャワー浴びておいで」


桐生颯悟は蓑虫の私からシーツをはぎ取り、抱き上げて浴室へ連れていく。再び全裸になってしまって顔から火が出そうなほど恥ずかしかったけど、桐生颯悟が私の肌をみつめるわけでもなく淡々と運ぶので、さほど気にせずには済んだ。こめかみに、ちゅ、とキスを落としていく。

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