颯悟さんっ、キスの時間です。(年下御曹司は毒舌で腹黒で…でもかわいいかも?)
これはデジャヴ……確か、桐生颯悟と両想いになる直前の夜だ。私が佐藤課長を好きだと勘違いした桐生颯悟が私のために私をここから追い出そうとした。最後の晩餐にとビーフシチューを作ってくれた。あのときと同じシチュエーションだ。桐生颯悟がビーフシチューをよそったお皿を荒くカウンターに置いたっけ。
ほら、いまだってコップをダンダンと音を立ててカウンターに置いている。

ということは、今、桐生颯悟は寂しさと戦っている。はず。
口が悪いのは裏返しだ。私のために我慢しようとしている。

しょうがない、私は荷造りする手を止めて立ち上がった。そして桐生颯悟のいるキッチンに入る。


「なに。なにか用?」
「ふふふふふ」
「キモいんだけど。用がないなら出てって。邪魔だし」


桐生颯悟は私に背を向けてグリルを引き出した。私はその背中のシャツをつまんだ。
きゅ。優しく引っ張る。
桐生颯悟はぴたりと動きを止めた。でもすぐに作業を再開する。振り向きはしなかった。

ツンツン。もう一度引っ張る。


「なに」
「颯悟さん。好きです」
「キミ、バカ?」
「好きです。颯悟さん」


魚を包んだホイルのかたまりをグリルに入れ、タイマーをセットすると桐生颯悟は振り返った。
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