颯悟さんっ、キスの時間です。(年下御曹司は毒舌で腹黒で…でもかわいいかも?)
その白い頬は少し、色づいているような……気がしないでもない。


「あの。聞こえなかったんですけど」
「……買ってあげる、服」
「え?」
「昨日、ブラウス無駄にしたでしょ。あんなにシミだらけじゃクリーニング出しても落ちないじゃん」
「いえ、あれは私の手際が悪かったから」
「オレも気づかなくて悪かったし、ごめん」


ごめん? 桐生颯悟が謝った? あの桐生颯悟が?? 聞き間違いかと思って彼の顔を正面からのぞき込もうしたが、ポーンと機械音が鳴って扉が開いた。


「近場のブティックでいい? わざわざ車出すのも面倒だし」
「どこでもいいです!」


エントランスを出ると桐生颯悟は裏の通りに入った。スズラン通り商店街という小さな通りで、宝飾店や呉服店、紅茶専門店などが並んでいた。夜8時を回っていたからシャッターの降りた店もある。

数件先に小さなブティックを見つけ、桐生颯悟が中に入っていく。アラサーアラフォー周りのお店らしい。スーツやカットソー、ドレスなどビジネスシーンに使えるものばかりだ。このあたりはオフィス街だから需要もあるんだろう。

ちょっと高そうだな、かわいいけど。
プライスタグを先に見てしまうのは貧乏人のサガだ。素敵だけど、値段も素敵すぎる……私のひと月分のお給料だ。

ため息をつきながら指でフレンチスリーブに触れると、二重のシフォン生地がふわふわと揺れた。色はシャーベットピンク。広い襟ぐりはラウンドカラー、ウェストには太めの革ベルト。スカートは広がりすぎないフレア。ワンピースだ。

着てみたいけど、ピンクだし甘めのデザインだし。桐生颯悟に鼻で笑われそうだ、“似合うと思ってんの? キミ”とか嫌みを言いそうだし。


「キミ、なにがいいの?」
「ブラウスですよね? えっとそれじゃあ……」
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