颯悟さんっ、キスの時間です。(年下御曹司は毒舌で腹黒で…でもかわいいかも?)
私は冷蔵庫を開けてチーズを出す。キッチンペーパーとラップで丁寧にくるまれたブルーチーズとカマンベールチーズ、そっと剥がしてナイフで切り分ける。


「颯悟さんはブルーチーズに蜂蜜かけますか?」
「そんな食べ方あるの?」
「はい。蜂蜜ピザとか流行ったじゃないですか。あんなノリですよ」
「ふうん。ゲテモノ好きのキミだけの嗜好かと思った」
「いいから食べてみてください。かけちゃいますから」


チーズを盛り付ける私の後ろを桐生颯悟がすり抜ける。ほんのちょっと腰が擦れて、どきっとした。こんな小さなことに鼓動を早めているのは私だけで、彼はなんともなくIHのスイッチをいれた。ほんのり頬が赤く見えるけど、鍋の赤が彼の白い肌に反射してるからだ。

ル・クルーゼの鍋の蓋をひょいと開け、桐生颯悟は深みのある皿に飴色の物体を流し込んだ。ゴロゴロと皿に落ちるのはじゃがいもや人参、お肉。香ばしい匂いが鼻を突く。


「ビーフシチューですか?」
「好き?」
「好きです! うれしいです! だってご馳走じゃないですか」
「そうなの? 別に普通だけど」
「そ、そうですか……」


ああ、相手は御曹司の桐生颯悟だった。ビーフシチューなんて朝ごはんに出てきてもおかしくない。

うちは私の誕生日やクリスマスや卒業式などのお祝い事で母が前の日から煮込んでくれた。付け合わせはマッシュポテトと甘く煮た人参。仕上げに生クリームを垂らして。お皿の脇にフォークとスプーンとナイフの3本のカトラリーが並ぶのも高級感があって。お嬢さまになった気分だった。
< 80 / 328 >

この作品をシェア

pagetop