颯悟さんっ、キスの時間です。(年下御曹司は毒舌で腹黒で…でもかわいいかも?)

でも意味がわからない。背負わないと落ちるって? おんぶで落ちたりしないのに。ひょっとして、なにか、別の意味を含めた?


「ありがとうございます。それは経験者のアドバイスですか?」
「さあ、どうでしょうね」


ふたりのかみ合わない会話は私の頭にもかみ合ってなくて、なにについて話しているか見当もつかない。

佐藤課長は今度は会釈だけして背を向ける。肩を揺らし鼻歌でも歌うみたいな飄々とした後ろ姿。いつものゆるーい佐藤課長にもどっていた。

桐生颯悟は佐藤課長が角を曲がって見えなくなるまで立ち尽くしていた。


「いまの会話って」
「キミには関係ないよ」


桐生颯悟は再び歩き出した。
同じおんぶでも心地は違う。佐藤課長には体を預けられたのに桐生颯悟の背中は違う。

サラサラと動く桐生颯悟の背中はしがみついてないと振り落とされそうだった。私は腕に力を込めた。

桐生颯悟の襟から香るのは石鹸とシャンプーとお湯の匂い。髪はまだところどころ湿っている。乾かす時間も惜しんで迎えに来てくれたということだ。

そこまでしなくても佐藤課長が送ってくれたのに。迎えに来る必要なんてなかったのに。

どうして優しくしてくれるの?
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