嘘だらけの秘密

社内にいる時に話をして、
仕事中に考えてわたしなりにけりがついていたせいか

思っていたよりも全然話し足りないという気持ちはなかった。

戸波さんもそれを察していたのか、それ以上
仕事の話は振って来なかったし、雑談をずっとしていた。


なんだかんだで、社内やと仕事中心の話になってまうからなぁ。
双海とこんなプライベートな話したん初めてかもしらん。

色々気にはなっとってんけど。
けどな、相談してくれてほんまによかった。


そう言ってくれたので、もう止められなかった。

あかんあかんと思いながらも、口がどんどん戸波さんを欲するワードを並べていく。


戸波さんやから相談したんです。
ほかの人も優しいから、相談して無下にするような人ちゃうって分かってます。

そうやなくて、戸波さんに聞いて欲しかった。
戸波さんがおらんかったら、自分でけじめつけとったし、ひとりで泣いた。


そんなようなことをずっと言っていた気がする。


戸波さんはひとしきり聞いて、

やけど、ほんまにみんな優しいから。
頼ったらお前のこと、みんな心配するよ。優しくしてくれるはずやから。もっと頼り。

と言った。


なんだか思ってた反応とちゃう。
悔しいやら悲しいやらでついにこう言った。


やったら戸波さんは、○○(同期)が同じように泣いて戸波さんに相談したら、今日と同じような対応しはるんですか?

わたしは他でもない戸波さんやから話したのに。
そりゃ好意を持ってる人に相談したいですよ。


少しの沈黙があり、信号待ちで戸波さんと目が合った。

なんとも言えない表情。
見たことない顔をしていた。


そら、そうやろうなぁ。


どやろ。わからんけど、せんと思う。

○○(同期)……には、せんやろなぁ、間違いなく。
○○(先輩)にも、せんと思う。


わからんけど、お前やからしたんかなぁ?


そう呟きながら、難しい表情をして
戸波さんは首を傾げ、頭をくしゃくしゃした。

戸波さんの困った顔もまた好きだった。

ちょっと口を尖らせてむっとする。
ちっちゃな子みたいやなと思う。



その後はもうその話題には触れなかった。

危ないと分かっていたし、
戸波さんも同じやったと思う。

これだけは言わなきゃと思ったことだけは言った。

憧れの戸波さんと夜のドライブなんて、
不謹慎やけどドキドキしちゃいますね。


戸波さんがどんな顔をしていたかは知りたくなかった。


なんやそれ、と降ってきた声がちょっといつもと違ったので、

多少は心に響いただろうか、なんて期待してみたりした。


あっという間に自宅の最寄りのコンビニについて、
そこの駐車場に停めた。



降りなかん、と思いつつも、

ありがとうございますわざわざ、と戸波さんの顔を見たら
なぜだか身体が固まって動かなくなってしまった。

ガッチリ目が合って、捕えられて、
ほんまに何故かわからんけど、動けない。

息が苦しくなって、降りますなんて言えんかった。


降りなかん、降りなかん、でも無理まだこうしていたい。戸波さんと話したい。


そんな逡巡があったのち、

5分だけ、と震える手を開いてかざした。


戸波さんは目を泳がせながら逸らして、
まだ早い時間やしええけどね、とおかしな方向を見ながら言った。


家の近くで、しかもよく来るコンビニの駐車場に、戸波さんがいるのが不思議で、

しかももう何を話したらいいのか分からなかったから

ひたすら戸波さんの昔話を聞いていた。
あとは社内のわたしが知らない話。


必死に頭を回して話を聞いていたけど、

降りろと言わない戸波さんの目を見るたびに
なんだかクラクラして倒れそうやった。


気づいたら1時間半が過ぎていて、ハッとした。


戸波さんは、
ずるいな~。上手いこと引き伸ばしよって。こんな経ってると思わんかったわー。


そういってイタズラっぽい笑顔を向けてきた。

散々引き伸ばして拘束はしたものの、
迷惑じゃなかった、ということだけはその言葉から伝わってきた。


潮時やなと思って、

まだほんまはおりたいけど、と言いながら車を降りた。


またタイミング合う時やったらいつでも送ったるから。
今日はいっぱい泣いたやろうし、ゆっくり寝や?

あ、でもありがとうございましたとかメールしたらあかんで。嫁にバレるから。

あいつ、人のケータイ勝手に見よるんやわ。消しても、件数減ってるとかでわかるっぽいし。

ほんなら、おやすみね。


そうわたしに言い残して、戸波さんは走り去った。


去り際に手を振ってくれて、胸がいっぱいになった。
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