ホワイトデーにおくるのは。
「翔、ちょっとアルバム見てみないか?」

「うん」


押入れから古くなったアルバムを取り出す。開いた中身の写真は、どれもこれも今よりも質が悪く、しかも少し色褪せてしまっている。

もう十年以上経つもんな。


「これなんかすごいよな」


父さんが指さして見てる写真の中の母さんは、水色のエプロンと三角巾に身を包みながら、鼻になにか食材を付けて、満面の笑顔でこっちを見ている。

他にも泡立て器を持ってなにかをかき混ぜていたり、フライパンでホットケーキをひっくり返していたり、圧力鍋で煮物を作っていたり、母さんがいかに料理を楽しんでいるのかが、時を越えて手に取るようにわかった。

過程を楽しむというのは、こういうことなのかもしれない。

甘奈も好きなら、それを俺も一緒にできないかな。

学校で得たヒントを思い浮かべながら、なにかと結びつく感覚が芽生えた。

お菓子作りも過程の一つ。

一緒にできたら、喜んでくれるだろうか。

料理やお菓子作りの過程を楽しむという感覚は、俺にも理解できないけど、なにより甘奈に喜んでほしい。

作るのは、バレンタインと同じガトーショコラでいいかな。

どんな風に甘奈が作ったのか気になるし、お菓子なんて作ったことがない俺には、他にどんなものが作れるのかわからない。

俺一人で作れるはずもないし、明日甘奈に話してみよう。

一緒にガトーショコラを作りたい、と。

ホワイトデーのお返しになりますように、とアルバムに映る母さんの笑顔と、甘奈が見せてくれる笑顔を浮かべながら、静かに祈りを重ねた。



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