ホワイトデーにおくるのは。
「甘奈、とろとろになってきた」

「あぁ、じゃあ、できるだけ空気入れないように混ぜて」


まだ要求することがあるのか。

いったいいつまでこの、なんの変哲もない作業と音に身を委ねなきゃならないんだ……。

指示通りに混ぜていると、とろみが増していき、混ぜにくくなった。

少し泡立て器にくっついているし、ここまで来ると、なんとなく見たことがある感じがする。


「甘奈、こんなもん?」

「ん? あぁ、オッケー、オッケー。大分時間かかったね」

「え?」


気がついたら、やり始めて一時間になりそうなくらいだった。

まさか、甘奈はこれより短い時間でできあがったのか。

恐るべし、甘奈。


「じゃあ、次ね」


甘奈はそう言って、俺が混ぜていた生クリームに、溶かしたチョコを流し込んだ。

さっきの作業はこれか。


「もしかして、まだ混ぜるの?」

「そうよ」


既に腕がつらい。

淡々と言い放つ甘奈の言葉がにわかに信じがたかった。


「ムラがないようにしてよね」

「あ……、ああ」


変な笑いを浮かべながら、わかったような、わかってないような、曖昧な返事をした。

再び泡立て器を握る手に力を込め、単純なぐるぐる作業を繰り返す。

ほんと気が狂って、目が回りそう。

真っ白な生クリームが、どんどんチョコの色と混ざっていく様子は、まるで自分の心を写しているみたいに見える。

最初は甘奈に喜んでもらいたい一心だったが、こんなにも滅入りそうになっている。

とはいえ、生クリームを作るよりは簡単ではある。

目に見えて変化がわかるし、すべて混ぜるのもすぐに終えた。

< 21 / 29 >

この作品をシェア

pagetop