ホワイトデーにおくるのは。
「できたぞ、甘奈」

「はいはーい、じゃあ次ね」

「え?」


次とはなんぞや、と考えている内に、またもや甘奈は得体の知れない液体をボールに流し込んだ。


「これは?」

「え? 説明必要?」

「頼む」

「一応言うと、卵と薄力小麦粉と塩少々。まぁ、わかったところで変わらないわ。さ、混ぜて」


甘奈が容赦ない鬼に見えてきた。

鬼に金棒なら、甘奈に泡立て器か。

余計なことを考えて、現実逃避にひたった。


「早く混ぜて、固まっちゃうわよ」

「はい」


どれだけこの作業を眺めているのだろう。

ただ次の行程はなにをするかなどは、俺はなに一つとして考えていない。

甘奈はすごい。

本当なら、もっと調理行程を確かめながらやらないといけないところを、ここまでポンポンと指示を出してくれるんだから。

これを一人でやって、あのチョコをここまでの時間と手間を割いて作ったのか。

混ぜる作業に、なぜか心の内もなにかが混ざるような気がする。

尊敬なのか、愛着なのか、それともなにともつかない感情なのか、わからないけど、なぜか温かさを感じる。

ようやく混ぜ上がった。達成感がはんぱない。

女子力なんて言葉では片付けられない。

持久力が必要な作業行程だった。


「お疲れ様。じゃあ、このパウンド型に流し込んで。少し高いところからね、そのほうが空気が入らないから」


甘奈が差し出したのは、上の面だけない、長方形のステンレスの箱みたいなものだった。

説明から察するに、これがパウンド型のようだ。

クッキングシートだと思うが、内側に紙が敷かれていて、どうやらこの上に流し込むようだ。

パウンド型に流し込んだその様は、チョコのプールができたみたいに、並々に入った。

< 22 / 29 >

この作品をシェア

pagetop