ホワイトデーにおくるのは。
* * *


甘奈と恋人になったのは、去年のクリスマスだった。

甘奈から告白してきてくれたから。

そのときまでなんとなくかわいいな、と気になっていたけど、話すきっかけがまるでなかった。

たまたま体育の合同授業で、卓球のラリーの練習をしているときに、すごく離れたところでラリーしていた姿がかっこよかったらしい。

そんな自覚は俺にはさらさらなかった。

相手をしてくれた直也(なおや)や渉(わたる)がドライブ回転をかけるのがうまかったから、下がって距離を取らないと反応できなかった。

他にラリーしてる人達は割と卓球台に違いところで打ち合っていたにも関わらず、一人だけ妙に長い距離で打っていたから、目立ってしまっていた。

かっこいいところを見せるというよりは、かっこわるい故にしたことだけど、甘奈の眼にはそれがよかったらしい。

なんとも複雑な心境。

その日は、たまたま甘奈と鉢合わせて、校舎裏に呼び出された。


「翔くんのこと、好きです」


いきなりの告白だったけど、俺は甘奈と話せたことがとにかく嬉しくて、恋人になった。

あのときはまだくんづけだったな。初々しくて、かわいかった。

それからすぐに打ち解けて、お互い呼び捨てになった。誰にも送ったことがないのに、学校で年賀状を手渡しもした。


「なに、様付けしてんのよ」

「そっちこそ」


なんて言いながらも、お互い照れながら、笑いあったこともあった。

他人の手書きなんて、見たことがなかったから、女の子らしい丸みのある字が新鮮で、かわいらしかった。

とは言うものの、この二ヶ月強、一度もデートはしたことがない。

メールもたまに「おはよう」とか、「元気?」とか以外はほとんど交わしていない。


「甘いのと苦いの、どっちが好き?」

「甘いのが好きだけど、甘ったるいのは嫌だな」

「ホットとアイスはどっちが好き?」

「アイスかな。熱いの苦手で、味がわからなくなる。これって、なんの話?」

「コーヒーだよ」


そんな変なやりとりしかしていない。

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