教えて、空の色を
そっと…その綺麗な頬に指で触れると

紗由理がとても悲しそうな顔で瞳を潤ませていた

「なんでそんなに泣きそうなんだよ…」

「違う……泣いてない…」

明らかに目が雫を落としそうなのに…強情にも紗由理は首を横に振るから…

指で髪と首筋の間をなぞってから胸に引き寄せた…

甘いバターと紗由理の香りが立ち昇る

「泣くなよ……」

分からない、何故かは分からなかったけれど紗由理が泣くのは嫌だった

「泣いてなんか、ないもん……」

ゆっくりと顎を持ち上げてそっと口づけようとすると

……紗由理が胸を押し返した

「や、めて…」

このよくわからない感情に自分自身で戸惑う

欲しいならさっさと口付けて甘い言葉でも囁いて

抱いてしまえば…いつもの通り簡単なのに

「ごめん……」

そうしたくなかった

紗由理をそういう風にしたいなんて

なんでだろう、思えなかった

紗由理がじゃあ行くね、とバスケットを手に公園を出ていこうとしたから

腕を引いた

「待てよ…あ、いや仕事はちゃんとやる……だから逃げんなよ」

「うん……お願い……」

手を繋いだまま空を仰ぎ見る

「こんな空がいいのか?」

抜けるような青

雲の無い真っ青


すると……予想外に紗由理は上も見ないで答えた

「森の中の空がいい」

と言い出した

「森の中の空?」

「うん、あのね…河野さん、ホントに休憩時間終わりだから…離して?」

そうだ、紗由理はこれからまた忙しいんだったな

「あ、ごめん……わかった、じゃあちょい考えるわ」

去り際、くるりと振り返った紗由理が舌を出してきた

「他の女の子みたいに簡単に口説かれませんからね!」

その姿がすごく可愛く見えてしまう…

「はー?口説かねぇよ、じゃあな」

だろうなぁ

簡単にしなだれかかってくるようなヤツなら楽なのに

そんな風に心の中では思ってた




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