名無しの女
「そんな呼び方するのなんてあなただけよ」
「だからいいんじゃん」
何を言ってるんだと思いつつ酒を取り上げようと手を伸ばす
──────その手が絡め取られた
「え、んっ」
酒臭い息が、舌が、唾液が口で暴れる。
まるで酒を飲んでるのかと錯覚しそうなほど濃い
唇が少し離れ、息だけで彼がささやく
「俺だけの、名前」
酔ってないでしょと疑いたくなるほどしっかりした口調
吐きだされた吐息に酔いそうだ