浮気の定理-Answer-
それから数分後に現れた待ち人は、思っていた彼女ではなく、同じくらいの年齢の男性だった。


ホッとしたのもつかの間、話し始めた内容に思わず顔をしかめそうになる。


先輩と呼ばれたその男性は、どうやらあの彼女の父親らしい。


お互いに頭を下げる姿に、首をかしげた。


本来ならば、父親である男性が頭を下げるのはおかしな話だ。


大事な娘さんに傷をつけて申し訳ないと、謝るのは妻帯者でありながら手を出した男の方ではないのか?


グラスを持つ左手の薬指にはしっかりと指輪が光っているのだから。


お互いに頭を下げながらも、最後は彼女の父親が去り際に放った言葉に、あの男性は衝撃を受けたように項垂れた。


グラスにはほとんど口をつけなかった後から来た待ち人は、そのまま彼の肩をポンポンと叩いて先に帰っていった。


何を言われたのかまでは聞こえなかったが、男性はまだ彼女に未練があったのだろうか?



また悪酔いしなければいいな、と思いながらもう空になったグラスの代わりに、そっと氷を浮かべた水を彼の前に差し出した。

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