題名のない恋物語
「…もういいよ!」
頭を上げると元カノはもういなかった。話し声も聞こえないので、それなりに離れた席に座ったんだろう。
理紗は複雑そうな表情で息を吐いていた。気を遣ってもらったんだろうとすぐにわかった。やり方が変だけど。
「理紗」
太腿に置かれた手に被せるようにして自分の手を置く。するりと滑らせて理紗の指に自分のそれを絡めた。
「ありがとう」
じっと見つめると理紗は目を小さく見開いてから逸らした。薄暗いけど、顔が赤いのはすぐにわかった。
愛おしくて仕方ない。どうしよう、もう歯止めが効かなそうだ。正直驚いてる。今まで、こんなに簡単なものだっただろうか。こんなに簡単に、人を好きになるものだっただろうか。
案外俺、薄情だったのかもしれない。切り替えも早かったのかも。それは向こうもみたいだったけど。
言ったら、理紗は困った顔をするんだろうなと思う。だって今までそんなんじゃなかったのに、突然どうしたのってなるに違いない。
だけどそれでも、もしかしたら顔を真っ赤にしながら笑ってくれるんじゃないかって、そんな淡い期待を抱かずにはいられない。
時間になったのかシアター内の照明が落ち、広告が始まった。その後もずっと俺たちは手を繋いだまま映画を見ていた。