春恋
普通なら一人一つの本棚を担当するところ、俺たちだけ二つずつの担当になってしまった。
「あー最悪。誰かさんのせいで・・・」
「ご、ごめんってば!」
みんなが帰った薄暗い図書室で、俺と桜は作業をしていた。
桜は手前の本棚二つ。俺が手前一つといちばん奥の光も届かないような本棚の担当になった。
「じゃあ、俺奥のやってきちゃうね。」
桜に声をかけて奥へと進んだ。
奥にひとつだけランプを持っていき、担当の本棚までたどり着くと、真っ暗なところがぽわっと少し明るくなった。
「・・・!?」
人の姿がぼわっと浮かび上がってきた。
声すら出ない。え?ひと?おばけ?
その人のようなものはもぞもぞ動いたかと思うと、俺に這い寄ってきた。
「たすけっ」
思わず叫びそうになった俺の口に人差し指のようなものをあてがいその人のようなものはこういった。
「図書室では、お静かにね?」
つかまれた右手が熱い。背中越しの本棚の冷たさと相まって、俺の体温が急に上がっていくのを感じる。
やわらかな感触。熱い息遣い。
ふと解放されたかと思うと、「もう今日は帰って大丈夫ですよ。」といって彼女は暗闇に消えていった。