たった一つの勘違いなら。

この話はそれで終わったのかと気を抜いてしまったが、そうは行かなかった。

コーヒーに口をつけた後、ゆっくりと目を上げて富樫課長が私を見る。

「幸せになって欲しいって言ってくれたよね」

「はい」

「嬉しかったよ。ファンだなんて、橋本さんにそんな風に言ってもらえると思ってなかった」

本当に消えればいい、あの酔っ払い。ファンですってなんだ、職場で。アラサーと呼ばれるいい大人にもなって。

「俺が幸せになるのを手伝ってもらいたいなんて言ったら、図々しいかな」

「私にできることでしたら、もちろん。でもお手伝いするって?」

「ありがとう」

富樫課長は嬉しそうに微笑んでくれた。ああ、よかった。昨日みたいな冷たい目や悲し気な顔は見たくない。


「君に指摘されたような軽い付き合いっていうのは、やめようとしても意外といきなりは難しくてね」

そういうものなんだろうか、私にはわからない世界だが。それに関するお手伝い?検討がつかない話の流れだった。


「特定の相手ができたって言うとしても、相手があいつじゃさすがに困るだろう?」

「それはそう、ですよね」

多様な生き方が認められる社会になりつつあるが、確かに富樫課長がいきなり社内の男性とというのは。社長の手前もなかなか難しいと思う。
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