素直になれない
「疲れた時には砂糖一つ……か」


「……？」


溢れた声に顔を上げて日向先生を見た。


懐かしげに柔らかく笑っている。


「……リンが言ったんだろ。疲れた時には砂糖一つ入れて飲めって。普段俺ブラックしか飲まないけど、今みたいな時にはやっぱりこっちの方が美味く感じるな」


そう言ってコクっと喉を鳴らして飲む先生に見入ってしまう。


言った。


確かに。


いつだったかバイトでヘトヘトになっていた先生にコーヒーを入れてあげたことがあった。


ブラック派の彼に無理矢理砂糖一つ入れたコーヒーを飲ませた。


あの時も美味いってホッとした顔してた。


あの時の彼の表情が好きで。


私がしたことで喜んでくれる彼を見るのが嬉しくて……。


インスタントコーヒーを美味しく飲める方法を調べて、砂糖一つ加えたコーヒーを彼が望む時に作ってあげてた。


彼の為に……。


思い出せばこんなに優しく温かい気持ちにしてくれる想い出がもっとたくさんあるの。


彼の色んな表情を、私はたくさん知っている。


だけど、同時に胸を締め付けられる位苦しくて痛い想いも私を襲う。


忘れたいのに。


忘れさせて欲しいのに。









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