偽装結婚はおさない恋の復活⁉︎

「水川のことは……誤解なんだ」

野田は、(すが)るような目で稍を見つめた。

「よっく言うわー。由奈があたしたちの前でなんて言ってたか、教えてあげましょうか⁉︎」

沙知がいきり立った。椅子からすくっと立ち上がりそうだ。すかさず、山田が沙知の肩を抱いて「沙知、はい、どうどう……」と馬を(なだ)めるように落ち着かせる。

気の利かないズレたヤツだが、方法はどうであれ、さすがに沙知の対処には慣れていた。
稍は山田がいてくれてよかったと、生まれて初めて思った。

「……水川に相談したんだ。
ややと婚約しても『ややが本当におれのことが好きなのかどうか、自信がない』って……」

あぁ、やっぱり、いつものパターンだったか、と稍は嘆息した。

「そしたら、水川が『ややさんの気持ちを確かめたらいい。あたしも協力するから』って言うから……」

それが「大阪の夜のインスタあげ」の「真相」ってことか、と稍は顳顬(こめかみ)を押さえた。

「すべて真っ赤なウソの芝居なのに、おまえはおれの話をろくに聞かないで、あっさり婚約破棄なんて言い出すから、おれも売り言葉に買い言葉で……」

「なっ、なに都合のいいこと言ってんのよっ⁉︎
そんなのぜーんぶ『由奈の作戦』に決まってんじゃんよっ!」

また沙知が興奮してきた。
山田の「沙知、はい、どうどう……」が始まる。

「とにかく、水川とは、なんでもないんだ。
信じてくれ……やや」

野田が怖いくらい真剣な表情で、稍を見つめる。

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