偽装結婚はおさない恋の復活⁉︎

「さっちゃん、ごめんね。あたし帰るわ。
またLINEするから、今度仕切り直して呑もう」

「了解ですっ!ややさん、今度はうちでオールで飲み明かしましょう!」

沙知が威勢よく握り(こぶし)を上げた。

「山田、さっちゃんのこと、お願いね。
中途半端なことをしたら、許さないからね」

山田は、こくこくこくっ、と首を上下させた。

稍は野田の方を見た。

「ここのお勘定、山田の分も含めて、野田さん持ちでよろしく」

「わかってるよ……天沼まで送ってく」

野田がそう言って、席を立とうとする。

稍は、はっきりと首を左右に振った。


野田は、稍の右手の真珠(パール)のピンキーリングをちらり、と見て言った。

「それ、正月におまえの実家に挨拶に行ったときに買ったヤツだろ?」

三田のアウトレットで買ったものだ。

「おれには買わせてくれなかった、おまえの誕生石の指輪だな」

まるで泣いてるみたいな情けない顔で、野田は笑った。

あのときは、エンゲージをもらったばかりで悪いな、と稍が思ったからであったが……

「そのバッグも買わせてくれなかった」

稍が肩にかけたサッチェルバッグだ。

野田とドライブ中に寄った酒々井のアウトレットで買ったものだ。誕生日でもなんでもないのに悪いかな、と思ったからだった。


「おれは、結局……ややになにもあげられなかったな」

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