偽装結婚はおさない恋の復活⁉︎
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稍と智史はその後、小学生の頃に校外学習で訪れた鵯越(ひよどりごえ)大仏を見に行ってから、市街地に戻ってホテルにチェックインした。

今回の帰省はスケジュールがタイトで、観光するヒマはないから雰囲気だけでも、ということで智史が異人館周辺にあるホテルを取っていた。

明治の初めに開業され、神戸だけでなく日本の中でも最古の西洋式ホテルと言われる、最高級のところである。

しかも、リザーブされていたのは、高層階のエグゼクティブフロアにあるキングルームだ。
六甲の山並みが望めるシティビューではなくて、瀬戸内海が見渡せるハーバービューの方だった。

「うわぁ……」

ハンズプラスのオレンジのキャリーバッグを置いた稍が窓辺に駆け寄り、感嘆の声をあげる。

浜側に沿って這うように神戸の街並みが広がる。今から夜景が楽しみだ。

そのとき、ふわりと背中が包まれた。
智史が稍を後ろから抱きしめたのだ。

「……稍」

稍はあわてて振り向いた。
すると、智史の腕の中にすっぽりと収まってしまった。

「……勇気をくれ。これから、おまえの親父さんに『お嬢さんをください』をやるねんぞ」

このあと、稍の父親に会って「結婚の報告」をすることになっている。

父親は「相手が変わった」ことはまだ知らない。野田が来ると思っているかもしれない。

「相手」が智史だと知ったら、父はどんな顔をするだろうか?

稍はくすっ、と笑った。
会社では、どんなプレゼンでも緊張してそうになかった「青山」だったのに?

……しかも、あたしたちは「偽装」なんよ?

「なにがおかしいねん……」

機嫌を損ねたようにそう言って、智史の顔が近づいてきた。

二人のくちびるが重なる。

いつの間にか、稍は自然とそれを受け入れるようになっていた。慣れとは怖ろしい。

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