偽装結婚はおさない恋の復活⁉︎

呆然とフロアに佇む稍を促して、智史は受付に向かい、来客用のカードをもらう。
セキュリティのゲートを通過した智史は、まっすぐに人事部へ向かう。

すると、稍が先月の初出社したときとはまるで違う人がそこにいた。

……この人って、人事部長とちゃうの⁉︎

「……まさか、部長、待ってたんじゃないでしょうね?」

智史の口調はすっかり氷点下の「青山」だ。
就業時間前だというのに、と苦笑している。

「だって、あの堅物の青山君の奥さんだよ?
だれだって一刻も早く見たいさ」

人事部長はかなり興味深げである。

「妻の稍です。会社では旧姓で働かせますので『麻生』でお願いします」

……はぁっ⁉︎
あたし、クビになったんと(ちゃ)うの⁉︎

稍はなにがなんだかわからなくて「夫」の顔を見上げる。

……それに、会社でも「偽装結婚」するつもり⁉︎
それって、就業規則とか服務規程とかに抵触するんとちゃうの?扶養家族とかの手続きしてしもうたら、公的機関をばりばり(あざむ)くことになるやんっ!

「……早く部長に挨拶しろ」

隣から、稍にしか聞き取れない声が聞こえてきた。

「あ…あの……つ、妻の稍です。どうぞよろしくお願いします」

稍は「母親仕込み」のお辞儀をした。

……ちょっとっ、急に『妻の稍です』って言わなあかんやなんて、めちゃくちゃ照れるんですけれどもっ⁉︎

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