偽装結婚はおさない恋の復活⁉︎

「……うーん」

稍の血圧を測りながら、医者がどうにも腑に落ちない顔をする。

「えっ、稍の血圧になにか……」

智史が顔色を変える。

彼は医者とは反対側のベッドの端に座っていた。血圧を測る反対側の稍の手をがっちりと恋人つなぎしている。

「いやいやいや……そうじゃなくてね」

医者が苦笑する。

そのとき、ピピッと音がした。
智史があたりまえのように稍のチュニックの中に手を入れて体温計を取り出す。

左腕は血圧を測っていて、右手は智史と「恋人つなぎ中」なので、稍は自分では取れないのだ。
そもそも、体温計を稍の脇の下に差し入れたのも智史だった。

「体温も血圧も問題ないよ……『特効薬』が駆けつけて来てくれたおかげで、見違えるほど顔色も良くなったしね。やっぱりSSRIの出番はなかったな」

医者は智史から渡された体温計と手元の血圧計を交互に見たあと、稍に顔を向けて告げた。

「よかったな、稍」

穏やかに微笑んだ智史は、

「喉、乾いてへんか?」

ベッドサイドに置いていたペットボトルのミネラルウォーターを取った。

そして、横たわっていた稍を起こし、抱きかかえるようにして水を飲ませた。
稍も素直に身体(からだ)を智史に預けて、こくこく飲んでいる。

そんな光景を見て、ますます腑に落ちない顔になった医者が、

「あのさ、つかぬことを伺うけど……君たち、『偽装結婚』ってほんと?」

意を決したように二人に訊く。

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