偽装結婚はおさない恋の復活⁉︎

「……稍、ちょっと悪い」

やさしげな瞳で稍を見つめてそう言うと、智史は彼女をクッションのような大きな枕を背にして座らせた。

そして、内ポケットからカードケースを取り出す。

先月の半ばに智史が誕生日を迎えたので、稍が長財布とセットで贈ったのだ。
彼の愛用しているブリーフケースと同じ土屋鞄のものである。
大人になってから初めて贈った、稍の「智くんへのプレゼント」だ。

智史がカードケースから一枚のカードを取り出し、医者に提示する。

「ちょっと、拝見するよ」

医者がカードを受け取る。

「保険証だね……あれ、ややさんの名字は、確か『麻生』じゃなかったっけ?」

「それは、入籍前の名字なので」

智史が説明する。

「同じ職場では紛らわしいので旧姓を名乗らせています。戸籍名はそこにあるとおり……」

智史が指で示す。

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