偽装結婚はおさない恋の復活⁉︎
そのとき、焦った声が飛んできた。
「おまえ……関西弁しゃべれんのかっ!?」
ダークネイビーのスリーピースを着た長身の男が、背後から小柄な美咲を見下ろしていた。
ネクタイとポケットチーフの色が、美咲のドレスの色と同じサーモンピンクだった。
「あたりまえやぁーん。あたし関西生まれの関西育ちやもん。結婚して東京に転勤になって初めて関西を離れてんから」
振り返った美咲が呆れた声で、その男へ返す。
離婚した元夫が関西以外の人だったので、実はその頃から標準語だったのだが、それはなんとなく言わないでおいた。
面倒なことになる気がしたからだ。
「そっちこそ標準語でしか話さへんから、関西弁忘れたんかと思うたわぁ。中学から東京やろ?
新田さんもかおりんも、東京から赴任してきはった人らやし、あたし一人関西弁なんはおかしいかな、って思うたから」
「なに抜かすっ、中学・高校はこっちやけど、大学では戻っとるがなっ!」
長身の男がまくし立てた。
男は養殖マグロで有名になった大学出身だった。
「はい、はい。わかったから。
……あ、ひさびさに高校と大学の後輩に会うてんやんかぁ。悪いけど、このまま大和のこと見といてくれへん?」
美咲が首を傾げて、かわいくお願いする。
「『後輩』って……まさか、男と違うやろな⁉︎」
長身の男が気色ばむ。
「なに言うてんよっ。あたし、女子校やんかっ!
……あっ、ややちゃん、ごめんなぁ」
美咲が申し訳なさそうに稍を見た。
「うちのダンナやねん、二回目のっ」
無邪気に紹介してくれるのはいいのだが……
……美咲さん、『地雷』踏んでますっ!
『二回目』っていうのはいらへんからっ!
案の定、美咲の後ろの長身の男が、思いっきりムカついた顔をしている。
すっかり「面倒なこと」になっていた。
……実は、先刻あなたを一目見たときから、気づいてはいましたけどね。