輪廻ノ空-新選組異聞-
沖田さんはそのまま、被さるようにして、上からわたしの背中を確認した。

「かなり血が出ています」

黒い羽織。

それでもわかる位には出血したんだ…

確かに…痛かった気はするけど。

自分の体を傷つけられるより何より、沖田さんがどうにかなったらって、それだけで、頭で考えるより先に体が動いてた。

「痛くはありませんか?」

沖田さんは傷口らしい所をグッと押して聞いてきたけど、何ともなかった。

「痛くもかゆくもありません…」

沖田さんの胸に顔を埋めたままの状態で答える。

「こんな所で脱がせる訳にもいきませんしね…」

背中だから前を肌蹴る訳で、胸を見られちゃったら困る。



「…あ!山崎さんはご存知ですから、物陰で手早く確認だけしてもらってきます」

「え…っ」

私は言って、何かを言おうとしていた沖田さんに気付かず駆け出してた。




「う~ん…何もありまへんで?」

確かに鎖の裏生地にも、襦袢にも、肌にも血は沢山付いているけれど、怪我は一切見当たらないって首を傾げる山崎さん。

「斬りつけた女が、逆に自分の刃を握った手ぇを切ってしもたせいで血が付いたんちゃいまっか」


という山崎さんの結論にわたしは、取り敢えず頷いた。


痛かったのは覚えてるし、刺されたのは確か。

でも傷がないというのも本当。

その理由なんてすぐには分からないけど、無傷だという事を、急いで沖田さんに知らせに戻った。




「沖田さん」

戸板に身を横たえて、まだまだ具合が悪そうな顔の沖田さんを、そっと覗き込んだ。

「怪我は何もありませんって」

「そうですか…」

「沖田さん?」

わたしを見ようともせずに答えた沖田さんに慌てる。

「具合、全然良くなりませんか?」

更に顔を覗き込んだら、今度は顔を逸らされて。

「沖田さん…」

不安になって。
思わずしょんぼりした声になった。

「ら、蘭丸が悪いのです!」

と、今度は沖田さんが慌てた声。

「私以外に……は、肌を…」



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