輪廻ノ空-新選組異聞-
「そうか。不自由はなかったか。良かった。これで安心して深雪を迎えられるな」

屯所に戻って、局長室でふたり並んで復命を終えると、近藤先生は嬉しそうに笑って言った。


「蘭丸は…その、何だ」


と、近藤先生は何やら歯切れの悪い口調になった。

「新選組から出て、休息所に入る、とかはどうであろうか。考えてはいないのか?」

続いた言葉にわたしは目を見開いた。

たとえ、沖田さんが帰ってくる家で、毎日会えたとしても、ひとりで家にいるなんて考えたことがなかった。

最初からわたしは、ひとりになりたくないからと、おなごでの生活の提案を断ってたし!

何より、配属が違って、わたしに出張が多くて余り一緒にいられないとしても、新選組から離れるなんて考えたことないよ!


思わず沖田さんの顔を見ようとした瞬間、沖田さんの方が先に答えを発してた。

「先生のお気遣いは嬉しいのですが、私は蘭丸をひとりでおいておくのは賛成出来ません。この時代に慣れず、今でも時々言葉も分からない。いくら隊の中での日々が危険でも、守られている部分があります」

それに、と沖田さんは言葉を続けた。

「蘭丸の剣術の腕は確かに当流の中極位目録。もし、これが普通に道場での修行だけの日々だったら、免許でしょう。素晴らしい腕前で、隊の士気も上がります。であるならば、共に働いていきたいのです」

と、沖田さんはきっぱりと言ってくれた。

わたしは、そんなに力を認めてくれていたんだと、胸が熱くなった。


「総司の言う通りで、儂もそう思う。ただ少し…親心が出た。総司に可愛い嫁ごがきたら、それ以上の幸せはない」

近藤先生、と今度は沖田さんが熱い呼気と共に吐き出してた。

「ありがとうございます」

ですが、もう既に私も蘭丸も、充分に幸せなんですよ、と笑顔で。

わたしも一緒に頷いた。

「そうか」

と、近藤さんは納得したのか、大きな口の端を持ち上げて笑った。


「では、これまで通り、蘭丸を隊士として扱う」


近藤先生の言葉に、ふたりで深々と頭を下げた。


「ただし」


と、最後に近藤先生は言葉を付け足した。

「互いに、互いの存在を弱点にしてはいかんぞ。相手に気を取られて己がやられるなど、以ての外だ。気を引き締めていけ」


わたしたちは、改めて頭を下げて、「はい!」と答えて礼を述べ、局長室を後にした。






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