輪廻ノ空-新選組異聞-
「ほんまの目的は酒やけどな」

伊木さんの言葉に呆れ顔をしたら背中を叩かれた。

「目出度い時に酒は必要不可欠やろ!酒屋はしもうてるし、人が集まるとこ行かな、な!!」

「好きですねぇ。美味しいと思わないなあ、私は…」

「まだまだやな!!」

そんな他愛のない話をしながら歩いてるんだけど…。


どうも落ち着かないこの感覚は、何?

背中がゾワゾワするって言うか…、

なんだろ、そわそわ?

神経がピンと張って…

ちょっと道場での師範との本気稽古の時みたいな…。

沖田さんとの真剣立合いの時みたいな…。


「だめだ…」

呟いて、堪らず手を刀に…

「死ねーーーーーっっ!!!」

瞬間、背後からの絶叫。
振り向き様、鯉口を切って、ほとんど反射神経みたいな感覚で刀を左から右へと薙いでた。

重く、手に伝わる感触。

目の前には、目を見開いて、大きく刀を振りかぶった志士の姿。


『返り血を浴びたくなければ、かわすのが一番ですが、余裕がない場合は、申し訳ないけれど斬った相手を蹴倒す』

「蹴倒す」

沖田さんの言葉を思い出すのも身体に刻まれた感覚のようで、斬った胴を目にした瞬間には蹴りを入れてた。

全てがスローモーションみたいで。
音は全然ない世界で、ただ視界と触覚だけがいやに鮮明だった。

相手が倒れ、血が噴水のように吹き出すのを見た瞬間、音が戻って。
同時に周りの状況を見る判断。
そして伊木さんの事を思い出した。

「伊木さんっ!!!」

目に飛び込んできたのは鍔迫り合いになっている伊木さん。
それを狙って飛び込んでいくもう一人の志士。

< 55 / 297 >

この作品をシェア

pagetop