輪廻ノ空-新選組異聞-
ヒュッ、ズバンッ!

わたしは無言で、伊木さんを背後から斬ろうとしていた志士の左側の肩を斬り付けてた。

凄い悲鳴が響き渡って。
途端に、伊木さんと競ってた志士は刀を捨てて、四条通りを西に逃げ出した。

「おっ、待ちぃや!」

伊木さんが追いかけようとした先で、その逃げた志士をひっつかまえるふたつの姿。

「副長!沖田先生!」

伊木さんが嬉しそうに声を上げた。

沖田さん……。
土方さん……。

視線の先には確かにふたりの姿があって。

わたしの方に駆けてくる沖田さんの姿。

途端に気が抜けて。

代わりに込み上げてくる吐き気と震え。

「まだしっかり!」

危うく膝が抜けてしまいそうになっていたわたしの所に辿り着いた沖田さんが、耳に口を寄せて力強い声を掛けてくると同時に、背中を強く叩かれて、わたしはどうにか正気を保った。

あわせに挟んだ懐紙を出して刀を拭うと納刀し、今起きた事を説明した。

「歩いていたら、背後から突然に襲われ…、一人を斬った後、先程逃げていった志士と鍔迫り合いになっていた伊木さんを背後から襲おうとした志士を一人、斬りました」

最初に斬った人は……もう血の海の中動かなくて。
肩を斬った方は、悶えながらも命に関わるような事にはなっていないようで。

「そうでしたか。こちらは…絶命」

沖田さんは屈みこんで、倒れた志士の首筋に手を当ててから確認すると、見開いた目を閉じさせて。

「この人は、さっきの人と一緒に所司代に連れて行きましょう」

悶えている方は手早く縄で腕を後ろに回し、腰と一緒に縛って。

「蘭丸、手柄だったな。よくやった」

捕まえた志士を縛って、伊木さんと一緒にわたしの所に来た土方さんは上機嫌な様子で。

「お役に立てて良かったです」

わたしはなんとか微笑して答えた。

「こいつらは俺と伊木とで所司代に突き出してくる。亡骸の方も迷惑にならねぇところに寄せて、処分を頼んでおこう。伊木、道の端に寄せろ」

「では、お願いします」

沖田さんはすかさず答えると、わたしに向って「行きますよ」と告げ、さっさと歩き出した。

「あっ、待ってください」

わたしは慌てて追いかけた。
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