BIRD KISSーアトラクティブなパイロットと運命の恋ー
「あー……俺、もう行くわ」
「すみません。なんだか結局休ませてあげられなかったような……」

 月穂はドアノブに手を伸ばす祥真の背中を見て、肩を落とす。すると、祥真はピタリと動きを止め、振り返らずに言った。

「そういや夕貴が今朝も君の話をしていたけれど……よくここに来てんの?」

 月穂は目をぱちくりとさせた。

「夕貴さんですか? いいえ。今朝もそうですけど、偶然会うくらいで」

 小さく首を横に振り、今朝のことを思い返す。

「夕貴さん、指を書類で切って怪我したとか。仕事に支障ないですか?と聞いたら、どんなことがあっても大丈夫、みたいなことを言ってました」

 祥真は、素っ気ない声で返す。

「機内は乾燥するからな。ちょっとした拍子に切れることはある」
「そうなんですね。私……夕貴さんの言葉で、つい隼さんのこと思い出しちゃって」
「俺を?」

 祥真の仕事に対する真摯な態度が、今でも印象強く残っている。

仕事を語るときの祥真の目や声や表情すべて、魅力的で尊敬するようなものだった。だから、さっき不安そうにしていた祥真が、今はもう凛とした瞳で仕事に戻ることに月穂は安心していた。

「あ、引き留めてすみません」
「……いや」
「行ってらっしゃい。くれぐれもお気をつけて」

 月穂は口元を弓なりに上げた。背中越しに「了解」と返した祥真は、たったひとことだったが、さっきの素っ気なさはなく、なんだかうれしそうな声色に感じた。
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