BIRD KISSーアトラクティブなパイロットと運命の恋ー
その拍子に、右肩にドンと衝撃を受けた。
 乃々が追い越しざまにわざとぶつかってきたのだ。

 下りの階段に背を向けて立っていた月穂は、一瞬でバランスを崩し、視界が反転する。

 仄暗く静かだった廊下に、ドタドタという騒がしい音と呻き声が聞こえる。

「いっ……つ――」

 月穂は階段の中ほどから踊り場まで転落し、顔を歪めて右足首を押さえる。
 痛みで目を細めている間に、乃々がパタパタと駆け降りていった。

 その音が遠くなっていき、いつしかまた、静寂に包まれていた。

「いたた……はあ……」

 天井を仰ぎ見て、思わずため息を零す。

 罰が当たった。自分の弱さからいつまでも逃げて、他人までも傷つけたから。
 周りの人と向き合うこともせず、彼に会いに行こうとしていたから。

 月穂は眉根を寄せ、両手で顔を覆った。

「……痛い」

 転んで捻った足首よりも、胸が痛い。

 月穂はややしばらくそのまま動けずにいたが、たまたま通りかかった看護士に発見された。
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