誠の華−ユウガオ−
番傘を打ち付ける雨音を聞きながら懐かしい町を歩いていると女の子の姿が目に入った。
「その着物…」
無意識に口をついた言葉に女の子が振り返った。
「あ、雪姉さん」
私の姿を捉えるや否やパッと花が咲いたように笑い駆け寄ってくる姿は愛くるしく雪の胸を鷲掴みにした。
「たま、何してたの?」
「お散歩!私ね、雨の日のお散歩が大好きなの!!」
「変わってるね、普通はみんな晴れの日のお散歩が好きなのに」
目を丸くする私を見てクスリと笑みをこぼすたま。
内緒話をするように顔を近づけてきた。
「同じ江戸の町でもね、晴れの日と雨の日じゃ全然違うんだよ。見て、この朝顔もキラキラしてるでしょう!多摩川の水の量も凄いんだよ!!」
なんて無垢なんだろう。
私がこの年の頃は一体どんな事を考えていたんだろう。
「………そう思えるあなたが綺麗だよ」
「え?」
「もう、本当に可愛いんだから!おいでたま!美味しいもの食べに行こ!!」
たまを力一杯抱き締めると小さな手を握り散々通った甘味処へ行った。