今宵は遣らずの雨
「小夜里……」
宮内少輔が、小夜里に手を伸ばす。
小夜里は思わず後ずさりしたが、間髪入れずに宮内少輔に抱き寄せられる。
「おまえ……もしかして、断る気じゃなかろうな」
小夜里は居たたまれなくなって、慌てて顔を逸らす。
「もう、逃げられぬと申したであろう。
それでも、逃げおおせようとするのであらば……」
宮内少輔は小夜里の耳に口をつけて囁いた。
「……おまえの兄の佐伯 忠之進から『右筆』の役目を召しあげるぞ」
小夜里はびっくりして、顔を戻した。
「右筆」の御役目は、佐伯家の先祖代々からの「家業」である。
宮内少輔は、捉えた獲物は決して逃さぬ、飢えた獣のような怖ろしい目をしていた。