今宵は遣らずの雨

稽古をつけた最後の日、意を決した顔で尋ねられた。

「みなが噂しておりまする。
宮内少輔様は……ちっ…父上でござりまするか」

これだけ姿かたちが瓜二つなのだ。藩内の者たちはみな秘められた素性を察していた。

気がつかぬのは、小夜里の兄の佐伯 忠之進くらいだ。


宮内少輔は身分が身分なので(じか)になにか云う者はおらぬが、ずいぶんと妬んだ目で見られた。

藩内には、若き日の小夜里を娶りたかった者、今の小夜里を後妻にしたい者が、山ほどいたのだ。

特に、小夜里を離縁した者からは凄まじく睨まれた。自分はとっとと後妻(のちぞえ)を迎えたにもかかわらず、まだ子に恵まれていなかったからだ。

どうやら「原因」は、男の方の種なしにあったようだ。

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