今宵は遣らずの雨

「まぁ、重ね重ね申し訳ありませぬ」

初音は手を伸ばして、志ほせ饅頭を一つ取り、半分に割った。そして、さらにひと口大にし、自らの口の中に入れた。

「寿姫どの、御毒味はいたした。
……さぁ、どうぞ、召し上がってくだされ」

寿姫ははにかみながら、初音のいる離れまでやってきて、縁の端にちょこんと座った。

それから、初音が差し出した志ほせ饅頭を受け取り、ぱくっと食べた。

寿姫の顔がみるみるうちに綻んで、たちまちのうちに顔じゅうに笑みが広がる。

初めて「甘い」とはどういう味かを、知った瞬間だった。

初音もつられて、ふっくらと微笑む。

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