今宵は遣らずの雨

それは、同じく武家として生きてきた小夜里にとってもそうであった。

民部が三男坊であると知ったときから、兄が家督を継いだ自分とは縁のない、相容(あいい)れない者だということは重々承知していた。

将来(さき)のない相手だと(わか)り切っていながら、身を任せてしまった。

いくら離縁後は眉を落とさず歯黒もつけぬとはいえ、民部とて丸(まげ)を見れば、小夜里が一度は()したことのある女だと知れる。

だからこそ、後腐れのない女とかりそめの一夜の契りを交わしたのだ、ということも、小夜里には判っていた。


されど、不思議と悔やむ気持ちは露ほどもなかった。

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