今宵は遣らずの雨

ぼんやりとした行燈(あんどん)の明かりの中で、男と女は互いの顔を見つめた。

小夜里は指を伸ばし、民部の頬に触れた。

「民部さま……どうか……お達者で」

そして、ふっくらと微笑んだ。

民部の顔がせつなげに歪んだ。

「小夜里……」

(たま)らず、小夜里を力の限り、抱きしめた。

二人は、ぴったりと強く、固く、抱きあった。

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