今宵は遣らずの雨

◇第二話◇


向こうの部屋から、小太郎の朗々とした声が聞こえてくる。

「……子曰(のたま)はく 『(あやま)ちて改めざる、 ()れを過ちと()ふ』と……」

小夜里は、孔子の言葉を弟子の衛霊公が書き留めた部分「子曰、過而不改、是謂過矣。」の書き下しを聞いて、苦虫を噛み潰したような顔になる。

……「誤りを犯して改めないことこそ、誤りと云う」とは、まさに、今のそなたのことであるぞっ。

「小太郎は自分の『過ち』がなんであろうか、判っておるのであろうか」

小夜里は思わずごちた。

そもそも、「過ち」が判らなければ、改めようがない。

それでは、小太郎の改められなかった「過ち」が、塔のようにますます積み重なっていくではないか。

小夜里は、盛大なため息をまた吐いた。

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