婚約破棄するつもりでしたが、御曹司と甘い新婚生活が始まりました
松本さんが”大丈夫?”と気遣わしげな顔で声をかけてくるが、彼は従兄だし、「助けて下さい」なんて言えない。

それに、一応栗田百貨店の専務なのだ。

少し事情を知っている小鳥遊さんがいたらよかったんだけど……。

今日の私はついていない。

「……すぐに戻ります。彼は栗田百貨店の専務なんです」

強張った顔でそれだけ松本さんに伝えると、拓海さんにトイレの前まで連れて行かれた。

「父の話って何ですか?」

壁に身を寄せ、拓海さんを見上げる。

「最近日本に戻ったから気づいたんだが、伯父さん、会社の金を着服しているぞ」

彼は私に近づき、身を屈めると声を潜めた。

「嘘!」

拓海さんの衝撃発言に、一瞬頭の中が真っ白になる。

あの真面目な父が会社の金を着服するわけない。

「シッ!声が大きいぞ」
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