その音が消える前に、君へ。
その本へと伸ばされていたもう一つの手と、触れ相手の手と私の手は瞬時に下へ下ろされた。
すみませんと発しようと思ったけれど、その人の顔を見た途端に思考が止まる。
懐かしいあの音が、ようやく鼓膜を揺らしてくる。
言葉がすぐに出てきてはくれなくて、それよりも頭が着いてこない。
「久しぶり」
その声は少しだけ低くなっていた。
でもちゃんと聞き覚えのある声で、優しく私を包んでくれる。
ゆっくりと理解できてくると、自然と涙が溢れてくる。
「いや、ただいま。かな」
「あ、絢斗……くんっ!!」
静かな図書館で私は、そっとその名前を呼んだ。
すると嬉しそうに笑う絢斗くんが、そっと私の涙を拭ってくれた。
あの日……裏切りを犯し、約束を交わした時と同じように。
絢斗くんは、ちゃんと約束を果たす為に私の元へと帰ってきてくれた。